有閑多事 黒龍 編
観音の所へ 使いに出されたリムジンは ある川の岸で 休んでいた。
今日は暑い こんな日は黒龍には 辛いものがある。
黒いだけに熱の吸収が良いので 体温が上がりやすい。
それで リムは川岸で 涼を取っていた。
上流では 子供たちの歓声が聞こえている。
近くの村の子供が 川遊びにでも来ているのだろう。
リムは 最近 に呼ばれて 旅する主の守護に着いた。
三蔵一行の旅は 妖怪との戦闘と 西へと向かう旅なので、かなり ハードだ。
しかし 守護獣とはいえ リムは 妖獣のときに親にはぐれた所を に拾われて
そのまま育ててもらったために、に対する気持ちは 主というよりは
お母さんに近い想いを抱いている。
は今頃どうしているのだろう。
危ない目に遭っていないといいけれど・・・・・まあ 三蔵様たちは 自分たちが
危険に陥ろうとも の事は守ってくれるだろう。
それは 大丈夫だと リムは思う。
その時。
リムの目の前を 女の子が 川に流されて来た。
すでに 半分は意識がない様子で きっと 溺れたのだろう。
リムは 大人の人ぐらいの大きさになると その少女を助けるために
川の上に飛び立った。
足で その女の子を掴むと 水中から引っ張りあげる。
川原の乾いた草の上に その女の子を寝かせてやると
耳を心臓のあたりにつけてみた。
音がしない! 心臓からの音がしないという事は 死んでいるのか?
確かに身体は ぐったりとしているが まだ 間に合うかもしれないと リムは思った。
何とかしなければならない。
でも どうやって?
その時に浮かんだのは 八戒との会話だった。
『「何かに変化できますか?」
「さあ どうでしょうか、必要なかったので やらせてみた事は無いのですが、
今度機会があったら 何かに変化させて見ましょう。大きさは自由自在ですけどね。」』
自分にも変化できる可能性があると と八戒は言っていた。
つまり やったことがないだけで 変化は出来るという事になる。
今やらなければ この子供が 死んでしまう。
リムは 切羽詰っていた。
そんな時は 必要以上の力で 己の殻を破ることが出来る。
変化とは 自分の中にあるイメージになるのが 一番可能性が高い。
リムがとっさに選んだのは 観音の元で見てきたばかりの那咤の姿だった。
今の悟空よりも少し小さい少年。
リムは 変化するとすぐに少女を うつ伏せにし、背中を叩いてみた。
のどに入っている水が吐き出された。
仰向けに戻すと 口から息を吹きいれ 心臓の上を何回か押す。
もう一度 息を吹き込んだ。
すると 少女は せきこんで水を吐き 息を吹き返した。
驚いたのだろう せきながら 泣いている。
とにかく 助かったのだ。
リムは うれしかった。
少女の背中を撫でながら 「もう大丈夫だよ。」と言ってあげた。
すると その少女は リムを見て 「ありがとうお兄ちゃん。助けてくれたんだね。」と
苦しいながらに 笑顔で言ってくれた。
リムも自然と 笑顔になった。
そこへ 少女の母親だろう人が 駆けつけてきて 少女を抱いて 泣き出した。
無事な姿を見て 安堵したのだろう。
側に立っている リムを見て 「助けていただいたのですね、ありがとうございます。」と
深々と頭を下げて お礼を言った。
「いいんです 僕で役に立ってよかったです。
あの その子の名前 なんて言うんですか?」
「はい と言うんです。」
「へぇ 僕のご主人様と同じ名前なんだ。うれしい 偶然です。
僕は 旅を急ぎますので この辺で 失礼しますね。
ちゃん 川で遊ぶ時は 気をつけるんだよ。
『』という名前は 揚子江 神女さまの字なんだから 川で溺れると悲しまれるよ。」
リムは 笑顔で少女に言うと 親子に別れを告げて 立ち去った。
暫く歩いて 人気のない森の中に入ると リムは龍の姿に戻った。
今までは 必要なかったが 人型をとることが出来るようになった。
とっさに浮かんだ 那咤太子になったのには 自分でも驚いたが とにかく出来た。
しかも 助けた少女の名前は 主のと同じで それが余計にうれしかった。
いつも出来る限りの力で を守る事にしているリムジンだったが、
龍の姿では 限界があるんだと感じていた矢先のことだった。
これで さらに あの優しく美しい リムジンにとって誰よりも大切な人 を、
守れる可能性が生まれたのだ。
母のように慕うの顔を思い浮かべると 無性に会いたくなってきた。
たった2日ほど見ていないだけなのに 子供のような自分の心に あきれてしまう。
だが それをは とがめることなく優しく受け止めてくれることも知っている。
リムは 翼を広げて 飛翔すると 愛しいの元へと 青く澄んだ空を飛んだ。
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